C01-ニート(NEET)/何のために働くの?

平成16年版「労働経済白書」によると、「ニート」と呼ばれる若者が、全国で52万人もいるといわれます。

ニートとは、学校卒業後、進学せず、仕事もせず、仕事に就くための訓練も受けていない15歳から34歳の若年層のことで、「Not in Education, Employment or Training」の頭文字(NEET)による造語です。

定職を持たない若者としてよく話題になるフリーターは217万人(平成15年・厚生労働省調べ)に上りますが、彼らはまだ働く意志があります。ところがニートは、仕事をする意欲すら失っているといいますから、問題はより深刻です。

求職活動をしたことがない理由は、多い順に、「会社生活をうまくやっていく自信がない」「自分に向いている仕事が分からない」「何となく」と答えています。

働かなくても親の経済力で生きていける、というのは、豊かな日本の一面でもありましょう。一方で、長引く不況から正社員の新規採用を控え、パートにまかせる企業が増えていることも事実。いったん就職しても、仕事になじめなかったり、企業が求める即戦力になりえず、辞めてしまうケースも多いようです。

しかし根本的には、「働く意欲」というのは、人間の内面の問題ではないでしょうか。

ニートのある若者は、こう語っています。

「お金は要らない。そんなに物欲がないんですよ。それよりも精神的に満たされたい」
「とりあえず動くってできない。納得したいんです」
(玄田有史,曲沼美恵著「ニート―フリーターでもなく失業者でもなく」幻冬舎)

作家・村上龍氏は、こう評しています。

「彼らは人生を放棄したわけではない。立ち止まって、自立の芽を探しているのだ」


働くのは、生きる手段に過ぎない

かつては、生きるために必死に働いた。中には、働くために生きているような人もいた。「24時間戦えますか」とジャパニーズビジネスマンは鼓舞され、「仕事中毒」「会社人間」「過労死」という言葉まで生まれた。

結果、日本のGDPは500兆円。世界第2位の経済大国となり、働かなくてもとりあえず、生きていける国になりました。

今、その豊かさの中で生まれ育った若者たちが問いかけます。

「皆さん、何のために一生懸命、働いているんですか」

はたと、大人たちは考えます。「馬鹿な。働きもせずに何の人生だ」と一笑に付する向きもあるでしょう。

「若い時に苦労しておけば、退職してから楽できる」と、つい説教したくなるかもしれません。しかし、「退職してからより、今、自由気ままに生きていたい」という多くの若者の人生観を覆せるでしょうか。

ここで、心ある人は愕然と気づかざるを得ません。働くのは、生きる手段に過ぎなかったのだ、と。

ヨーロピアン・ジョークにこんな話があります。

レマン湖でスイス人が釣り糸を垂れている。
そばを日本人が通りかかって、しばらく釣りを眺めていた。
「何をしてるんだ?」と日本人。
「見ればわかるだろう、釣りだよ」とスイス人。
「釣りをしているって、魚が釣りたいなら、底網でどっさり捕ったら、どうかな?」
「どっさり捕ってどうする?」
「たくさん捕ったら売って、儲けたらどうだい」
「儲けてどうするね?」
「付近の城でも買えるだろう」
「買ってどうするね?」
「買ったら、う〜ん…、ホテルにでもしたら観光客がいっぱい来て、また儲かるよ」
「ホテルで儲けたら、今度はどうする?」
「その時には、そうだなぁ…、そうやって釣りでもしていたらどうだろうか…」

スイス人をニート、日本人を「なぜ働かないのだ」と叱る大人たちに置き換えたらどうでしょう。

「生きるのは何のためか」人生の根本があいまいなまま、「なぜ働かないのだ」と叱るだけでは、ニートの若者たちも納得できないと思うのです。