C05-戦後60年/映画『ヒトラー最期の12日間』より

 8月になると例年、戦争と平和をテーマにした番組が増えます。

  平成17年は特に、戦後60年とあって、テレビでは、民法、NHKともに戦争を軸にしたドラマ、ドキュメンタリーが目白押しでした。

 映画では、『ヒトラー 最期の12日間』が注目を集め、欧米で大評判になりました。常に悪魔のようなイメージで描かれてきた独裁者の、秘書の目から見た、「人間性」がこの映画のモチーフです。

「殺人鬼の人間性を振り返る必要など、どこにあるのだろうか」(ターゲスシュピーゲル紙−−ドイツ)や、「ナチスを美化する」として、戦争への傾斜を危惧する声に、演じたブルーノ・ガンツさんはこう答えています。

「ヒトラーが同じ形で再来するとは思わない。でも、違う場所、異なる方法で同じような恐怖は起こりうる。人間はそれほど弱いということを見てほしい」

 ブルーノさんの言うとおり、ボスニアやルワンダで行われた民族浄化は、小ヒトラーの再来といってもいいでしょう。

 戦争の惨禍を2度と繰り返さぬよう、憲法改正などの動きに目を光らせるのも大事です。

 しかし、親鸞聖人は、

「さるべき業縁の催せば、いかなる振舞もすべし」(歎異鈔)
 あのようなことだけは絶対しないと、言い切れない親鸞である。

とおっしゃっています。

 聖人の告白どおり、縁が来ればいかなる振る舞いもする、巨悪をひそませる潜在的残虐者が、私たちではないでしょうか。

 映画のヒトラーは、信じていた側近に裏切られて一人苦しんだり、愛犬をかわいがっていると思えば、ヒステリックにどなり散らす姿をみせたり、私たちの周りにもいる人間として描かれていました。

 よき父、よき夫が、権力を握れば、世界中から悪魔と呼ばれるような大惨事を引き起こす。そんな魔性がだれの心にも潜んでいる。

 だからこそ、常に己の心を凝視したいものです。