H01-限りない欲望を追い求めた女帝/西太后

「船にのりたい」(西太后)

人間、権力の座につくと、何を言い出すかわかりません。

西太后といえば、清王朝末期に君臨した女帝として有名です。

美しいが、わがままで気が強く、彼女を寵愛した皇帝・文宗も、「この女は満足するということを知らない。不気味だ」と、のちに側近にこぼしたといいます。

文宗の死後、わずか5歳のわが子が帝位につくや、西太后は、政敵を次々と処刑し、権力を思うがままにふるうようになっていきます。


「揺れない船を作れ」という西太后の命令により
作られた、離宮「頤和園」にある「石船」。
欲望の満足にのみ生きる彼女は、ある日突然、「船に乗りたい」と言い出します。しかも、「船酔いは嫌だから、絶対に揺れない船をつくれ」との命令です。

揺れない船は、もはや船ではありません。家臣たちが苦心の末に完成させたのは、船の形をした離宮「頤和園」でした。

しかし、その造営費捻出に中国艦隊の予算までがカットされ、そのため、日清戦争で惨敗したといわれているのです。

西太后にとっては、自分の欲望さえ満たされれば、国の将来など二の次でよかったのでしょう。

ほんの思いつきの一言が、国の命運まで左右してしまうのですから、人間の欲には、底がありません。
大変なおしゃれでもあった彼女は、2千着もの衣装をもっていたとも言われます。

しかし、いくら権力にしがみつき、金に飽かして欲しい物を買いまくっても、限りある命で限りない欲望を満たすことは、永遠に不可能。72歳で死ぬまで、西太后の権力への執念は衰えなかったようです。

まさに、権力欲にとりつかれた生涯でした。

しかし、欲望のままに生きているのは、西太后だけではありません。スケールのちがいこそあれ、誰でも欲望にひっぱり回されて生きているのは同じではないでしょうか。

ですから、人間は、煩悩具足の凡夫、煩悩に目鼻をつけた存在だと仏教では説かれているのです。