L11-人生の旅のなかば/ダンテ人生の旅のなかば、正しい道を見失い、私は暗い森をさまよった(ダンテ『神曲』) 中高年の自殺が、大きな社会問題になっています。 自殺者は平成10年より3万人を超え続け、その40パーセントが4、50代と言われます。「経済苦による自殺が増えている」と警察庁は発表していますが、物質的に貧しい国の自殺率が低いことを考えると、どうもふに落ちません。生活苦も深刻でしょうがそれだけではないでしょう。 ある精神科医は、「4、50代になって、ふと『こんなはずではなかった』の思いに襲われる人は珍しくはない」と言っています。「人生もゲームのようにリセットできたら」とつぶやく患者もあるそうです。人生の半ばを過ぎて、それまでの価値観が崩壊し、光を失ってしまうのでしょうか。 大手証券会社に勤めていた男性は、「あまりに大きなものを抱え込んでしまった」と遺し、3歳の長男と妻をおいて首をつりました。自殺の一昨年前、部次長になったあと会社がリストラを断行。残った社員の負担と昇進による仕事が重なります。年上の部下との人間関係に悩み、うつ病に。家族との会話はほとんどなかったといいます。 報われない人生をショーペンハウエルは、「苦痛と退屈のあいだを、振り子のように揺れ動く」と形容しました。 「卵の殻ほどのもの」を駆け抜け争い、山の向こうに幸せが住む希望に欺かれ、安心も満足もないまま、死の腕に飛び込んでいく。 生涯をかけたものが無残に打ち砕かれ、無益だったと知らされた衝撃は、言葉にもなりません。 人生という暗い森に、果たして光明はあるのでしょうか。
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