L10-みせかけの動物/シェイクスピア

「人間、外から付けた物を剥ぎとれば、皆、お前と同じ、哀れな裸の二本足の動物にすぎぬ」(リア王)

シェイクスピア四大悲劇の1つ「リア王」のセリフ。

王の権威にのうのうと生きていたリアは、外見に目を奪われ、人間の本当の姿に盲目でした。が、信じていた娘たちに裏切られ、嵐の荒野をさまよい歩くうち、この世のすべてが、みせかけのごまかしであると感ずるに至ります。


「人間、外から付けた物を剥ぎとれ
ば、皆、お前と同じ、哀れな裸の二
本足の動物にすぎぬ」(リア王)
ある気ちがい乞食を見てリアは、自分もまた「哀れな裸の二本足の動物」であると知るのです。

人は、他人を判断するとき、しばしば、服装や肩書で上下をつけます。また、自らもそういう虚飾によりかかって生きていこうとしています。

ブランド物を身にまとい、得意に闊歩する若者ばかりがそうなのではありません。政治家だ、医者だ、大学教授だと胸を張り、一流大学出身だ、大企業の社長だとふんぞりかえるのも同じ類です。

政界のドンが、脱税で逮捕されて老残の身となり、不世出の天才投手といわれる人が覚醒剤に手を出して醜態をさらす世の中です。

世間のレッテルを剥がされたあとに残るのは孤独に打ち震える魂あるのみ。

親兄弟、妻子、親友といえども、自己の真の理解者たりえません。

生まれてくるのも、死んでゆくのも一人ぼっち。独生独死独去独来の人生を、無底の暗黒に向かって生きているのが、すべての人間の実相ではないでしょうか。

電光朝露の夢、幻がさめた時、死出の山路、三塗の大河をたった一人で渡ってゆかねばならぬわが身の姿に泣くのです。