P11-ヨースタイン・ゴルデルのメッセージ/ソフィーの世界

あなたは、だれ?

40ヵ国語近くに翻訳された世界的ベストセラーで、日本でも120万部を突破した哲学書『ソフィーの世界』(ヨースタイン・ゴルデル著)は、この言葉で幕を開けます。

14歳の少女、ソフィーのもとに、ある日舞い込んだ1通の手紙。切手も差出人もないその手紙に書かれた言葉が、「あなたは、だれ?」たったのそれだけ。

やがて、もう1通、「世界はどこからきたの?」

そして「哲学講座 親展」と書かれた大きな封筒が届いたとき、そこにはすべての人間がかかわらなければならない、大切な問題が記されていました。

親愛なるソフィー

世の中にはいろんな趣味があるものです。古いコインや切手を集めている人はざらだし、手芸に凝る人もいます。暇さえあればスポーツに打ちこむ人もいます。

読書好きもけっこういます。けれども、何を読むかはじつにさまざまです。新聞かマンガしか読まない人もいれば、小説ファンもいる。天文学とか、動物の生態とか、科学の発見とか、いろんなテーマに手を伸ばす人もいる。

もしもわたしが馬や宝石の愛好家だったとして、ほかのすべての人と趣味の話で盛りあがるとは期待できません。わたしがテレビのスポーツ番組には目がないとしても、スポーツなんかつまらないと言う人がいることは、まあ、そんなものだと思うしかない。

すべての人に関心のあることなんてあるだろうか? だれにでも、世界のどこに住んでいる人にでも、あらゆる人間に関係あることなんて、あるのだろうか? あるんですよ、親愛なるソフィー。その、すべての人間がかかわらなければならない問題をあつかうのが、この講座です。

生きていく上でいちばん大切なものはなんだろう? もしも、飢えている人びとにたずねたら、答えは食べることですね。同じ質問を凍えている人にしたならば、答えは暖かさです。さらに、一人ぽっちでさびしがっている人にたずねたとしましょうか、答えは決まってますね、ほかの人びととのつきあいです。

けれども、こういう基本条件がすべて満たされたとして、それでもまだ、あらゆる人にとって切実なものはあるだろうか? 哲学者たちは、ある、と言います。哲学者たちは、人はパンのみで生きるのではない、と考えるのです。もちろん、人はみな、食べなければならない。愛と気配りも必要です。けれども、すべての人びとにとって切実なものはまだある。わたしたちはだれなのか、なぜ生きているのか、それを知りたいという切実な欲求を、わたしたちはもっているのです。

わたしたちはなぜ生きているのか、ということへの関心は、だから、たとえば切手のコレクションのような、いわば「ひょんなきっかけではまってしまう」興味とは別物です。この問題に関心をもった人は、わたしたち人間がこの惑星に生きてきたのとほとんど同じくらい長いこと議論されてきたことがらにかかわることになる。宇宙と地球と生命はどのようにしてできたのか、ということは、このあいだのオリンピックでだれがいちばんたくさん金メダルをとったか、ということよりもずっと大きな、ずっと大切な問題なのです。

(NHK出版「ソフィーの世界―哲学者からの不思議な手紙」 ヨースタイン・ゴルデル著)


すべての人間に関心のあることとは?
私たちにとって、最も大切な問題は、人生の目的である、と言っています。

では人生の目的とは何か?

実はこの本には、何も解答が示されていません。

ならば私たちはこの「ずっと大切な問題」にどうやって向き合えばいいのでしょうか。

著者ヨースタイン・ゴルデル氏はNHKのインタビューで、こう語っています。

「大切なのは疑問をもつことです。『ソフィーの世界』は読者がそれぞれ大切なものを見つけるための本です。いわば哲学への入り口にすぎません。しかし、この本には、西洋哲学のことしか書いてありません。日本の若い人たちには仏教や東洋の哲学を学んでほしいと思います」