S07-利己的な遺伝子/リチャード・ドーキンス我々は遺伝子という名の利己的な存在を生き残らせるべく、盲目的にプログラムされたロボットなのだ。(リチャード・ドーキンス著『利己的な遺伝子』) 1976年、生物学者リチャード・ドーキンスは『利己的な遺伝子(The Selfish Gene)』を著しました。
その中で彼は、遺伝子は徹底的に利己的で、自分を繁殖させることが至上の目的であるとしました。そして、人間を含めたいかなる動物も、遺伝子を残すためのヴィークル(乗り物)に過ぎないと言うのです。 動物の行動原理を全て「利己的な遺伝子」によって説明しようとするドーキンスの説は、世界中にセンセーションを巻き起こし、賛否両論の議論は今日に至るまで続いています。 しかし本当に私たちは「遺伝子を残すための乗り物」に過ぎないのでしょうか。 東京理科大学の田沼靖一教授は、その著書『死の起源 遺伝子からの問いかけ』の中で、「性と死」すら遺伝子を存続させるための「ストラテジー(戦略)」だと主張しながらも、こう書いています。 このことだけ考えると、私たちはDNAを次の世代に受け渡すだけの存在になってしまう。この悲劇性と無意味性を超える何ものかを、計り得ない「死」そのものを科学することによって、一度は考えておかなければならないだろう。 さらに氏はこう指摘しています。 現代の医学をはじめとする生命科学は、どのようにして「生きているのか」を問うているが、なぜ「生きるのか」を問うことを忘れている。ただ生きようとする方向のみの医学、科学であって、何のために生きるのかを内省していない。(同書) 人生は、多少の歓喜を除けば、苦しみに耐え続ける「涙の谷」です。私たちの存在がただ遺伝子の繁殖のためだけにあるのならば、そんな人生に何の意味があるのでしょうか。絶え間なき苦難と闘って、なぜ生きねばならぬのか。 真に求められているのは「この悲劇性と無意味性」を超える、本当の生きる目的なのではないでしょうか。 |