S06-魂の輪廻転生/ユング

「われわれ人間は、自分の個人的な生命を持っているとはいえ、大部分は依然として、その年齢が数世紀単位で数えられるような『集合的な魂』の相続人であり、犠牲者であり、なおかつ推進者である」(ユング)

スイスの精神病理学者カール・グスタフ・ユングは、フロイトと共に「深層心理学」という、新しい学問体系を樹立した人です。

フロイトの説によると、人間の心の世界は二重構造で、日常我々が知覚できる「意識」の奥底に、普通の状態ではまったく認識困難な「無意識」が存在します。


「我々の存在の少なくとも一部分は、数
世紀にわたって生きている。」(ユング)
「無意識」を、本能的な欲求や、劣等な動物的衝動の貯蔵所とし、「意識」の理性がそれを抑制することで、健全な社会生活が営めると、彼は考えました。

理性に対する欲望を、フロイトは「リビドー」と呼びます。最も根源的な「リビドー」は性欲であり、人間のあらゆる心理、精神の葛藤を、「性欲」対「理性」の対決という構図で説明しようとしたのです。

フロイトの学説は、「人間の魂は神聖なる神から与えられたもの」とするキリスト教の社会では異端であり、当然学界からは村八分。ところがユングは、学問的良心からフロイトを支持します。

しかし、心のすべてを「性欲と理性の対決」で割り切ってしまうのは無理があると感じ、フロイトが性欲の同義語として用いていた「リビドー」という言葉に、より広い意味をもたせ、「リビドーは自然発生的に変容する」と表現しました。

しかも彼は、キリスト教が支配するヨーロッパではタブー視される「魂の輪廻転生」を説いたのです。

「我々の存在の少なくとも一部分は、数世紀にわたって生きている。そこにおけるさまざまな要因が、現在の我々の生活に影響を及ぼしているがそれに気づくことはできない。それが無意識的である場合には、ますますその影響が深い」

結局、ユングの一生は、厳しい迫害との闘いに費やされています。