T09-なぜ自殺はいけないのか/大河内清輝君の遺書より
平成6年11月、愛知県西尾市の大河内清輝君が自殺しました。
清輝君は、4人のいじめグループに金をゆすられ、時には生命の危機にもさらされました。川で足を掴まれて水深6メートルの深みにドボンと沈められたこともありました。
また連日のように、万単位で金を取られ、貯金、小遣いでは工面できず、両親の財布から金を抜き取ったと告白しています。良心の呵責に、手書きの借用書を書き、金を盗むたびに数字を書き直しました。その額は積もり積もって、141万円。
そんな清輝君の、悲痛な叫びが遺書となって残っています。
いつも四人の人(名前が出せなくてスミマせん。)にお金をとられていました。そして、今日、もっていくお金がどうしてもみつからなかったし、これから生きていても……。だから……。また、みんなといっしょに幸せにくらしたいです。しくしく。小学校六年生ぐらいからすこしだけいじめられ始めて、中一になったらハードになって、お金をとられるようになった。中二になったら、もっとはげしくなって、休みの前にはいつも多いときで六万、少ないときでも三万〜四万、このごろでも四万。そして十七日にもまた四万ようきゅうされました。だから……。でも、僕がことわっていればこんなことには、ならなかったんだよね。スミマせん。もっと生きたかったけど……。(略)
何で奴らのいいなりになったか?それは、川でのできごとがきっかけ。川につれていかれて、何をするかと思ったら、いきなり、顔をドボン。とても苦しいので、手をギュッとひねって、助けをあげたら、また、ドボン。こんなことが四回ぐらい?あった。(略)泳いで逃げたら、足をつかまれてまた、ドボン、しかも足がつかないから、とても恐怖をかんじた。それ以来、残念でしたが、いいなりになりました。(略)
家族のみんなへ十四年間、本当にありがとうございました。僕は、旅立ちます。でも、いつか必ずあえる日がきます。その時には、また、楽しくくらしましょう。(略)まだ、やりたいことがたくさんあったけれど……。本当にすみません。いつも、心配をかけさせ、ワガママだし、育てるのにも苦労がかかったと思います。おばあちゃん、長生きして下さい。お父さん、オーストラリア旅行をありがとう。お母さん、おいしいご飯をありがとう。(略)僕はもうこの世からいません。お金もへる心配もありません。
(略)しんでおわびいたします。(略)
(大河内清輝君の遺書より)
「苦しくとも、なぜ生きてゆかねばならないのか」
そこに至るまでなぜ防げなかったのでしょうか。
再発防止の提言も数多く出ました。
「政府や文部省は、いじめた子を取り除き厳罰でのぞめ」
「生徒の対話が足りない。子供の訴えを受け止めよ」
「学力一辺倒の教育方針を押しつけ、人間教育がおろそかになっている」
「個々の学校や教師の問題とせずに、社会全体、大人一人一人が厳しく受け止める以外にない」
貴重な意見ですが、いずれも対処療法に過ぎないのではないでしょうか。
「なぜ人命は尊いのか」
「どうして自殺はいけないのか」
「つらくとも、苦しくとも、なぜ生きてゆかねばならないのか」
これこそが最も重要かつ根本的な問題なのに、不思議なほど全く論じられていないようです。
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