H04-私はただ命令に従っただけだ/アドルフ・アイヒマン

「疑いもなく、つねに人間の中に棲んでいる悪は、量りしれない巨魁なのだ」(カール・ユング)

平成17年、岐阜県中津川市で老人保健施設事務長が、自分の母親や娘など5人を次々に殺害した事件は、世間に衝撃を与えました。

「信じられない」「まさかこんな人が…」というマスコミ報道も分かりますが、そんな可能性が全くない無謬人間が世の中にいるのでしょうか。


アドルフ・アイヒマン(Wikipedia)
第2次世界大戦後明らかになったナチスのホロコーストの実態は、世界中の人々に大きなショックを与えました。

科学や哲学、文学や芸術、人文科学においても世界をリードしていたドイツで、なれあれほど残虐な行為が広範な人々によって粛々と実行されたのか。

多くの人は「これはヒトラーをはじめとするナチスの狂気のなせるわざに違いない」と解釈しました。

しかし大量虐殺の兵站業務の責任者であり、「主任死刑執行人」と言われたナチス幹部、アドルフ・アイヒマン(1906-1962)は、逃亡・潜伏先のアルゼンチンでは自動車工場でまじめに働き、結婚記念日には妻へ花束を贈るような男でした。

やがて拘束され法廷にたち、「私はただ上官の命令に従っただけだ」と、無罪を主張するアイヒマンの姿を見た人々は、冷酷無比の殺人鬼が、実は全く平凡な小役人だったことに驚いたのです。

裁判を傍聴したユダヤ系思想家のハンナ・アーレントは、「悪の凡庸さ」(悪魔的行為の実行者が個人的にはなんと平凡な人間であったか)という言葉を残しています。

「さるべき業縁の催せば、如何なる振舞もすべし」(親鸞聖人)

"あのようなことだけは絶対しないと、言い切れない親鸞である"

縁さえくれば、いかなるふるまいもする。

私たちの心底には計り知れない巨悪が、潜んでいるのかもしれません。