L03-目的なき日々/ツルゲーネフ

「情熱の冷えが日ごと深く私の心にはいりこみ、ますます強く心をつつみます……この世で起こっている一切が、私には何とうとましく、虚しく、ものうく、無目的なものに見えることでしょう」(ツルゲーネフ)

ロシアの生んだ世界的作家ツルゲーネフが、55歳の時、友人に書いた手紙の一節。

しかし、この時彼は、富と名声につつまれ、多くの友人と交際し、愛人までもっていたといいます。それなのに、この虚しさはどうしたことでしょう。

『散文詩』には、こう書いています。

「暮れ行く一日一日の何と空しく味気なく、甲斐ないものに見えることぞ。
でもなお、人は生きたいと望む。生を重んじ、希望を生に、己れは未来に繋ぐ。
ああ人は、どんな幸を未来にまつのであるか。
『明日は、明日こそは』と、人はそれを慰める。
この『明日』が、彼を墓場に送り込むその日まで」


暮れ行く1日1日の何と空しく味気なく、
甲斐ないものに見えることぞ・・・・
人はみな、大海の真ん中で懸命に泳いでいます。ところが、見渡すかぎり、空と水。陸地はどこにも見えません。丸太や板切れ、波間の浮遊物にしがみついて、束の間の安息を得ますが、高波に襲われれば、ガブリと潮水をのんで苦しむ。

新たな浮遊物を求めて、やっとの思いでたどりついても、また裏切られて、泣く。それを何度かくりかえしたあげく、やがて力尽き、人は死んでゆくのです。

目的地なき遊泳は、破滅あるのみ。富も名声も友も愛人も、ただ一時の波間の浮遊物と知らされた時、ツルゲーネフには、この世の一切が空虚に思えたのです。

人は何のために生まれたのか。生きるのか。つらく、苦しい人生を、生きてゆかねばならぬのか。

この「人生の目的」を、みなさん知っていますか。

ツルゲーネフは、こうも書いています。

「死に臨んで、何を思うだろう。おそらく私は、何も思うまいと努めるにちがいない。ゆくてにたちこめる恐ろしい暗闇に目を塞ぎたいばかりに、何かつまらないことを、しいて思い浮かべるに違いない」

めざす目的地が分からぬ苦悶の中で、彼は、65年の生涯を閉じています。