L07-君の瞳に乾杯!/映画「カサブランカ」より

映画ファンなら誰でも知っている『カサブランカ』の名セリフです。

第2次大戦中、ナチス・ドイツの制圧下にあったパリとモロッコのカサブランカで展開されるラブ・ストーリー。ハンフリー・ボガード扮するリックが、イングリッド・バーグマンの演ずるイルザに、この言葉を4回言います。

はじめはパリのリックの部屋で。めぐり会ったばかりの2人は、幸せの絶頂でした。

二度目は、ナチス入城前夜の小さな喫茶店――。「一緒にマルセイユに逃げて、結婚しよう」と浮かれるリックとは逆に、イルザは暗く沈んでいます。死んだと思っていた反ナチ運動家の夫が釈放され、リックと共に行けなくなったからです。

約束の停車場にイルザはついに現れず、リックは失意のうちにパリを出ます。

再会したカサブランカ。イルザは今度こそ、リックとの愛に生きようと決心します。

「わたし抗えないわ。一度はあなたから逃げたけど、二度はできないわ。ああ、間違いをおかしてもいいわ。あなたが全ていいように考えて」
「いいとも考えよう。さあ、君の瞳に乾杯!」
「……こんなにあなたを愛さなければよかった」

盲目の愛は、やがて霧の空港のラストシーンヘ。


……こんなにあなたを愛さなければよかった
(カサブランカ)
やはりイルザは夫と一緒に行くべきだと考え直したリックが、このセリフと共に、彼女に別れを告げるのです。

こみあげる切なさ。会者定離が胸にせまります。ただ、実際の別れは、映画ほどカッコよくはないでしょうが。

二人が再会する場面で流れるBGMは「時の過ぎゆくままに」。大戦中に制作されたこの映画は、60年後の今日も、時間が止まったかのように再現されますが、現実の時の流れは無常です。

バーグマンの息をのむ美しさにも、老いと死は、確実に訪れました。

”面影の変わらで年のつもれかし たとえ命に限りあるとも”と詠ったのは、小野小町さんですが、老苦は、美女にほど残酷なようです。

だって、「きみの瞳に乾杯」なんて、おばあちゃんにはとても言えませんからね。