P05-ぼくは、まだ映画がよく分かっていない/黒澤明

「ぼくは、まだ映画がよく分かっていない」(黒澤明)

 産経新聞のコラムに、次のような文章がありました。

”話題の映画『まあだだよ』の中で、黒澤監督は、作家、内田百閧フ口を借りて子供たちに言って聞かせる。「本当に好きなもの、本当に大切なものを見つけてください。それを見つけたら、その大切なものに向かって努力しなさい」それこそが人生の目的だというのである”

黒澤監督といえば、日本を代表する映画づくりの名人でした。現代アメリカ映画界最高の売れっ子、スピルバーグやルーカスが師と仰ぎ、彼らが作品をつくる時は、黒澤映画をすべて見直すほどだといいます。

しかし、83歳のとき、映画という、本当に好きで大切なものを追い求めてきた黒澤さんが、「ぼくは、映画がまだよく分からない」。

大指揮者トスカニーニは、晩年に、「私はようやく、べートーべンの第九が理解できるようになってきた」と、述懐しています。


「回峰行は、人生の縮図。人生も行も無始無終
だ」これでは達成の喜びは、死ぬまでないこと
になる。
芸術、スポーツ、学問、武術、これらには完成や卒業はありません。

戦後、最高齢で千日回峰行を二度達成した酒井雄哉さんは、言います。

「回峰行は、人生の縮図。起伏のある山道、平坦な道のくり返しで、その日その日を懸命に生きることが大事だと知らされた。人生も行も無始無終だ」

好きなものは十人十色、大切なものも千差万別、それに向かって努力すること自体が目的なら、達成の喜びは、死ぬまでありません。

これらは、生きがいではあっても、人生の目的ではないのです。