T02-親鸞聖人の肉食妻帯/夏目漱石

「親鸞聖人に初めから非常な信念があり、非常な力があり、非常な強い根底のある思想をもたなければ、あれ程の大改革はできない」(夏目漱石)

親鸞聖人31歳、肉食妻帯の断行は、宗教史上の一大革命でありました。

明治の文豪・夏目漱石も、驚き、賞讃しています。これは、大正2年、一高(東大教養学部の前身)での講演の言葉です。

漱石の蔵書の中には、1084ぺージもの『真宗聖典』があり、それをかなり読んでいた形跡もあります。

夏目家は代々真宗門徒でしたから、親鸞聖人への関心は高かったのでしょう。

続けて、漱石は言います。

「その時分、思い切って妻帯し肉食するということを公言するのみならず断行してご覧なさい。どれ位の迫害を受けるか分からない。もっとも迫害などを恐れるようでは、そんな事はできないでしょう。自信なり、確固たる精神がある。その人を支配する権威があって初めて、ああいう事が出来るのである」

漱石をして、かく驚嘆させた親鸞聖人の破天荒な言動の根底には、では何があったのでしようか。

それは、釈尊出世の本懐、阿弥陀仏の本願でありました。

「弥陀の本願には、老少善悪の人をえらばず。ただ信心を要とすと知るべし」(歎異鈔1章)


「妻帯し肉食するということを公言するのみな
らず断行してご覧なさい。どれ位の迫害を受
けるか分からない。」と漱石は言う。
阿弥陀仏の本願は”男女貴賎貧富、美醜、老少善悪を問わず、信ずる一念に、絶対の幸福に救済する”とのお誓いです。

この弥陀の本願まことだった、と体得された聖人は、阿弥陀仏の真意開闡の使命に燃え、公然と、肉食妻帯を決行されたのです。

残念ながら漱石は、聖人の言動のみ知って、その理由を知りません。だから、聖人をそれほど讃仰していながら、「あまり真宗を好まなかった」というのが通説です。

妻・鏡子の手記によると、五女ひな子が死んだ時、通夜にきた真宗僧侶の下品な態度が、漱石を真宗ぎらいにさせたようです。

仏法を伝える者の振る舞いが大事であることは、今も昔も変わりません。

僧侶の肉食妻帯は、今日もはや常識ですが、親鸞聖人と同じ信念をお持ちの方は、果たして何人あるのでしょうか。