T05-人間を美化しすぎたルソーの最後人間を美化しすぎたルソーの最期 「すべての人間の知識のうちで、最も有用でありながら、最も進んでいないものは、人間に関する知識であるように思われる」(ルソー) ”汝自身を知れ”というのがいつの世も金言なのは、我々にとって最も不可解なのが、他ならぬ我々自身であるからです。 18世紀フランスの思想家ジャン・ジャック・ルソーもまた、自己をさがし続けた一人でした。 誕生と同時に母親と死別、父親は幼い息子を親戚に預けたまま蒸発、以後ルソーは、ほとんど学校にも通わず、各地を転々として生きてゆきます。 一躍有名になったのは、1750年に出版した『学問・芸術論』によって。「文明の進歩は人間を幸福にしたか」というアカデミーの懸賞論文に、科学の進歩こそ人間を幸福な自然状態から堕落させたと主張し、見事に当選したのです。 「自然へ還れ」という有名な言葉に象徴されるように、ルソーは、人間が本来もつ自由、無垢、美徳などを取りもどし、自然状態に近づくことを提唱しました。 人間の自由と平等を論じた「社会契約論」は、そうした彼の人間観がよく表れています。
ルソーはまた教育論『エミール』を著し、「父親の義務を果たすことのできないものは、父親になる資格もない」と言いながら、自分の5人の子供たちは、生まれるとすぐ育児院に放りこんで、厄介払いをしています。 これほどの言行不一致も、古今に珍しいのではないでしょうか。 人間を美化しすぎたルソーは、最後の10年間、半狂人となって死んでゆきます。 知るとのみ思いながらに何よりも 知られぬものは己なりけり
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